2012/09/26

アフリカ上陸:Casablanca~Fes

アザーンの声とともに朝5時ごろ目が覚めた。

窓を開けるとまだうす暗い、けたたましい男性の声が街中のスピーカーから聞こえる。 モスクに呼ぶ為のアザーンと呼ばれるものだ。


何度も同じ単語を連呼し、力強い音声が街中にこだまする。アラブの国に来た事を実感した。




カサブランカ空港にはリスボンからたった1時間半くらいで着いた。入国審査は思っていたよりはるかに易しくて、税関でも何も取られなかった。だが、リスボンでバックパックを機内に持ち込むときにシャンプーと歯磨き粉を失った。

すぐさまユーロをディルハムに両替し、地下の鉄道駅まで行く。鉄道の本数は国際空港にも関わらず1時間に約1本という少なさだ、チケットを手にして客車に乗り込む。

車両は非常に汚く座席もボロボロだ、なんだか新鮮な気分で出発した。カサブランカの市街地で乗り継ぎ約280km離れたFes(フェズ)までの4時間の鉄道の旅だ、列車は時折とてつもない音とともに揺れる。

カサブランカ・ボイジャー駅(カサブランカのターミナル駅)でフェズ行きに乗り換える。

発車ベルというものは無く、駅員が大声で行き先を連呼しながら手を叩いて発車を知らせた。



水を購入し2等車に入った、だが、ものすごい人だ。確実に座れない。いままでの鉄道がいかに快適だったかを物語る。シベリア鉄道とは比べ物にならない。あちらこちらに人が座っているので僕も仕方なく通路に座る。窓からは見た事も無い風景が飛び込む。



もっとも驚愕したのは、都市部に近い所にすぐバラックがあったことだ。
至る所にゴミの山がありその上を何人かが歩いていて付近には手作りの家々が何百何千とある、ちゃんとアンテナや電線が通っているので、一応の生活はできているようだ。こんな異様な風景は見た事が無かった、あまりにも衝撃過ぎて空いた口が塞がらなかった。なんというか、恐怖感とも言えない挫折感とも言えない不可思議な感情を抱く。


車掌がチケットを確認してきた、すると。
「君のチケットは1等だよ」

本当に?よく見ると1と小さく書いてあったが、何の意味かわからなかった。
チケットを買うときフランス語の1のアンを一人という意味で連呼していたら、1等一人と勘違いされていたらしい。だが、後で聞いたら1等は160Dh(約1600円)で2等は110Dh(1100円)だったのでそこまで差はなかった。

車両を移動するが、いろんな所に座っている客をどかしながら進んで行く作業は実に苦労した。しかも列車のドアが空きっぱなしで非常にスリリングだ。ようやく1等に着くと6人用のコンパートメントで、席以外には人は座っていなかったので安心した。差額の500円は席代と思うか。



フェズに着く前に中年の男性に話しかけられた、易しそうでいろいろとホテルの場所まで教えてくれたので助かったが、駅に着くとこれから食事でもどうか?と聞かれ、何も食べていない僕は近くなら良いと答え、すぐ近くの簡単なレストランに入る事にした。
彼はフェズの旧市街で革製品を扱っている店を営んでいるらしい、真っ先に買わないかと訊いて来たが、買ったら旅行が続けられないと言うと残念そうな顔をしていた。なぜか食事を誘った彼はほとんど口にしなかったのが気がかりだったが、飯はわりとおいしかった。モロッコ風サラダ(米がなぜ入っている)に、タジン鍋(甘くないミートソースにミートボールと卵)とモロッコパン(これが結構腹に重い)、水、しめて600円くらいか。ビールは無いのかと訊くと、「モロッコにはほとんど酒はない」と言われた。
そうだイスラム教徒が9割以上を占めているのだ、当然酒や豚はない。

料理をハエと一緒に平らげた後、彼は明日もしよければ旧市街に来てくれ、と言いタクシーに乗り去って行った。ホテルのチェックインを済ませた。宿代は1泊1000円。



翌日、世界一の迷路の街フェズの旧市街メディナに足を運んだ。
カフェに昨日の革製品売りのおやじがいた。彼は僕を捜していたようで、僕の顔を見るなり待っていたと言われ、すぐタクシーでメディナに行こうと言う。よくよく考えれば軽率な判断だった。そんな慈善事業なんかするやつなんてこんな所にいないという事を知っておくべきだった。彼の案内に乗ったおかげでメディナの迷宮に迷う事は無かったとはじめは感謝していた。壁は高く道は狭い、いろいろな商店があり猫がそこら中で寝ており、狭い道にロバや馬や羊が通る。何もかもが異様な光景だった。そして感じた事の無い香り、もうここまで来ると臭いとかいい匂いというレベルを通り越したようだ。


革製品のおやじは店に案内した後、高台がありそこにあがると羊が見えた。おやじは、
「あの羊たちは肉、革製品や、毛皮になるんだ」
と意気揚々に話す。すぐ下には、確かに肉屋や革製品の店が多くあった。
「この革のバッグ、さっき下ろしたばっかで新鮮だよ」
と言われても、肉ならまだしも服やバッグはちょっと買う気にはなれないなと思った。
 羊たちの毛皮と革がここで干されていた



景色はこんな感じ




おやじがその後当然のように本性を現し、革製品や衣類を買わないかと執拗にきいてくる。いらない、いらないと連続で言うと、なんとか諦めてくれた。
もう帰るのか?と訊かれ、そうだと答えると、この道をずっと右に曲がれば通りに出てタクシーを拾えると言われ、足早に迷宮から出ようと試みた。

だが、すぐに自分がどこにいるのかわからなくなる。近くの人々は何か企んでるのではないかと、自分は勝手に勘ぐっていた。もしかしたらこの先が実は行き止まりで、さっきの奴が仲間を連れてきて、そいつらにボコボコにされるのではないか。本気で思った。

無事タクシーのいる所までたどり着いた。駅の近くのホテルまでと頼むと、フランス人が僕も乗っていいかと訊かれ相乗りに応じた。よく見ると右のミラーは無いし、右側の窓が無く実にボコボコのタクシーだ、僕がボコボコにされていなくてよかったと思った。

フランス人と話すとやや安心した。彼は旅行で二度目のフェズらしいが、やはりメディナは一人だと不安だと語る。前回はガイドを付けたらしいが今回は一人で抜け出すのに時間が掛かったと話す。少しおやじ対しコーヒー一杯であそこまで付き合わせて悪かったと思ってしまった。
 ホテルからの風景

アラブ式と洋風トイレの共演。



翌日は、バスで10時間かけてサハラ砂漠にある村メルズーガに行く。
バスは150Dhで21時に出て朝7時に着く、なんとか無事に着きたいものだ。