2017/01/02

平野浩一の2016年ベストアルバム

こんにちは、このブログの管理人の同居人です。ややこしいですが、僕の家に彼が住んでいます。が、音楽性の違いによって、彼は来月で出ていきます。

僕は音楽を一定のジャンルや系統で好きになることがあまりありません。音楽的文脈に沿って音楽を探すという行為がちょっと苦手なので、探すときにはちょっと苦労(まあそれを苦労と言っていいのかどうか)するのですが、不思議となんとかかんとか良い音楽に辿り着きます。その嗅覚というか見つけたときの反射神経に関してはある程度養われてるという自負があり、そんな自分に感謝しています。
ということを書いておいてアレなんですが、僕がここに上げる音楽は全てロックであると考えています。といっても最大級に広義的な解釈で、その定義は【自由】であることです。数限りないジャンルにオーガナイズされた音楽達を、唯一分け隔てなく繋げることができる接着剤のような音楽がロックです。そういう意味では僕は生粋のロック大好き青年でしょう。
僕が16才ぐらいの頃、大手外資系のCDショップの売場に初めて入ったとき、この世の中には一生再生し続けても聴ききることのできない量の音楽が既に存在していて、もちろんこれからも際限なく生み出されていくことを実感したその瞬間、心の底から人生が華やかになる予感に包まれ、ワクワクゾクゾクしました。近所のレコードショップでもなくクラブでもフェスでもなく、あの巨大な売場でCDとLPがズラッと並んでいる様、その物量に文字通り圧倒されました。
その気持ちはそのときから変わることなく、今をもって10代のときよりも更に強い探究心で音楽を聴き、その出会いに日々一喜一憂しています。

さて2016年は近年稀にみる豊作の年でした。多くのミュージシャンが新しい挑戦を結実させ素晴らしい傑作が沢山生まれました。そして、かつてその新しい扉をこじ開けてきたミュージシャン達が何人か亡くなってしまうという悲しい出来事もあり、特にレナード・コーエンやデヴィッド・ボウイの息を呑むような素晴らしいアルバムは、生涯をかけて進化を続けていたことを見せつけてくれました。
今回はそんな2016年というくくりの中で15枚のアルバムを選びました。
これを読んだ皆さんが音楽の新たな発見や解釈に出会えることを願っています。

そして、あくまで僕の主観ですが、これほど才能に溢れたミュージシャン達が世に出ている時代は、かつて無かったように思います。恐らくどの世代の方も自分が生きてきた時代に対して、少なからず同じように思うかもしれませんが、僕もその方々と同じように、今そう感じることができていることを本当に有り難く思います。そしてそのミュージシャン達が自分と同じか、少し上の世代であるということの同時代性には大いに刺激をもらいました。一つ欲を言えば、この15枚の中に日本のアーティストを入れることができなかったことは少し残念です。そもそも大して探してないですけどね。

iPodが登場した頃から予見されていましたが、ストリーミングや動画配信、SNSの台頭によって、音楽に対しての聴く側(消費者)のアドバンテージが上がり、ミュージシャンの収入源はライブに移りました。そして日本に限って言えば、海外のミュージシャンが来日してライブをする機会や、来ても公演数はぐっと減り、チケットも少しづつながら高騰しています。メジャーレーベルが推す日本のバンドは絶望的なクオリティながらも、大多数の需要を満たしている反面、音楽の多様化を大きく阻害しているよのが現状です。それは日本のバンドを中心にラインナップされた国内主要フェスの内容を見れば明らかでしょう。
ここに上げた15枚の中には、今までも今後も決して日本でライブを行うことはないであろうミュージシャンが何組か含まれています。アルバムと併せて最新のライブでの追体験によって、その作品をより深く理解するための機会が無いことは残念ですが、もしみなさんが興味を持ったミュージシャンが来日するという機会があれば、たまには仕事やデートをすっぽかしてでも都合をつけて観に行くのも良いかと思います。特に10代・20代の若い方には強くお勧めしたいんですが、機会が減っているからこそ、そういう体験は逃さないでほしいと思います。
もしかしたら、公演後にはライブ慣れしたオッサン達が演奏がどうとか低音が機材が照明がスタッフがと、色々うるさいかもしれないし、まだそれほど経験を積んでいない若い方々はそれによって、今夜のライブは良くなかったのかなぁと思い込まされてしまうこともあるかもしれませんが、できるだけ自分の感覚を信じてください。そして拍手や手拍子や奇声やなんやらはそれこそオッサン達に任せて、あなたなりに自由に楽しんでください。棒立ちだって構いません。なにより自由に楽しむことが大事です。

さて話しが大きく脱線しましたが、とにかくここに挙げる15枚がみなさんの音楽体験の新しい糧になることを願っています。もちろん、載ってるやつ全部知っとるわいという方もいるかと思いますが、そんな方は是非情報交換しましょう。

それから、僕は評論家でもなんでもないですが、時々なんらかの悪口は書かせてもらいます。もしあなたの好きな誰かを批判してたとしたらごめんなさいね。

では、どうぞ。












15
Sam Kidell
Disruptive Muzak
商業施設のBGM、デート中の車内、TVCM。
誰かが誰かをコントロールしようとするときに音楽の果たす役割は大きい。しかしその意思がブーメランのように”コントロールしようとする側”に向かって返ってきたなら、その役割はどう変わるのだろうか?という実験レポート的アルバム。
B面には”みんなも実験してみて”と、カラオケ音源を収録。
その行動力を僕らも学びたい。












14
Frankie Cosmos 
Next Thing
この人とデートするとしたら、これはそれなりの覚悟を持って臨まないとならないだろう。甘酸っぱい恋愛ソングをヒンヤリとした俯瞰的アングルでコンパクトに歌い倒すことで、普段から面倒くさい議題を頭の中に巡らせてるに違いないと思わせるコントラストがとても美しい。そしてそのコンパクトさはちょうど同じ時期に出たWilcoのScmilcoにも通ずるが、Wilcoの場合は敢えてコンパクトにしたがためにどこか彼ららしさを失ってしまったのに対して、本作が持つ剥き出しの美しさは、おっさん(Wilco)と今をときめく22歳の乙女の間の絶望的な距離をまざまざと見せつけるものとなっている。さすがのジェフも”Why Should I kiss ya? If I could kiss ya?”とは歌えない。そもそもジェフはもっと美しいメタファーを持っているので、そんなことは言わない。ということで、Wilcoとセットで聴いてみてもいい一枚。











13
Hope Sandoval & The Warm inventions
Until the Hunter
REGAのベーシスト、アキさんに勧められた一枚。10分弱もの間、ひたすら”I miss you”と連呼する一曲目のInto The Trees、そのただならぬ陶酔感を打ち破るのは、微妙にハワイアンなスライドギターが美しいThe Present。彼女に関しては、素性やらバックバンドのことやら能書きをあれこれ調べずに、ただただ出たアルバムを聴くことをお勧めしたい。ただしなんやかんや知ったところで、この作品を聴けば我々はいつだってその陶酔感に飛び込むことができる。ある意味でMuzak。









12
Badbadnotgood

もしジャズよりも前にヒップホップが存在していたならと思わせられ、なぜそんなことを思ったのかと考え、それはきっとヒップホップがジャズやフォークと同じく北米では既にトラッドな存在であって、ある程度DNAに染み込み始めたんじゃないかということに行き着き、それが彼らをいわゆるジャズバンドとは一線を画している要因かと思いきや、なんといっても一番は彼らが一曲一曲のために献身的であることがこのバンドの最大の強みだ。Netflixのゲットダウンと併せて楽しみたい。


11
PJ Harvey
The Hope Six Demolition Project
百聞は一見にしかず。
















10
Oren Ambarchi & Ricardo Villalobos 
Hubris Variation


これはオーストラリアのギタリストの曲をリカルドヴィラロボスがリミックスしたもの。2曲入りだがほとんど一曲みたいなもので、27分半あるんだけど聴きどころはラスト35秒。ここのための27分なんですよ!とは言いません。Basic Channelとか好きな方はもう家宝でしょう。Hubrisの方は、より現代音楽の影響が色濃いアプローチだがバンド感が若干野暮ったい。その点で本作はクラウトロックを基調として、様々なミュージシャンがかわるがわる登場してくるかのようなアレンジは、さながらミニマルダブ版ジョンレノンスーパーライブat武道館といった趣だ。だが安心してほしい、思考停止状態の日本のロック歌手とやらと、CHABOとCharという謎の名前のギタリストたちも出てこない。













9
Tortoise
The Catastrophist
-Yonder Blue-
The color of the sun is nearly lost in the horizon
As the night comes in
But it shines again tomorrow
And I know I'm gonna find you
Cause it's the day I'm gonna find you

Oh, I'll fill the ocean with tears until I find you
Until I find you
Oh, I'll be in an ocean of tears
If I don't find you
If I don't find you

If I could only make it rain

It seems the stars are shining
They're always out there hovering around the moon
Oh that illusive moon its faintly blue
But it will glow again tomorrow
When I find you

If I could only make it rain













8
Don't DJ
Music Acephale
泣く子も黙るRobert Beattyによる素晴らしすぎるアートワークに包まれた良い塩梅のトライバルハウス。本人は作品が説明されることに極度の嫌悪感を抱いてるようなので、とにかく聴いてみてほしい。












7
Radiohead
A Moon Shaped Pool
-Burn The Witch-
“This is a low flying panic attack. Sing a song of six pence that goes burn the witch”
彼らなりの21世紀型多様性応援キャンペーンソングで勢い良く幕を開けるRadiohead史上最もラフな聴こえ今作は、同じく5人のライブ感をパッケージングしたHail To The Thiefの汚名返上となったか。
未だに自分たちの居場所を見つけられないこと、そして時間の残酷性を感じさせるDaydreamingとそのミュージックビデオ。本当に重い作品だ。だからこそ敢えてラフに仕上げたのかもしれない。それでも他のミュージシャン達を寄せ付けない、研ぎ澄まされたアレンジは、世の中から孤立無援状態で成立してしまっており、それが作品を彼らをさらに孤独にしているのだろう。
多くの人が”低空飛行”を続け、今まで彼らが信じ続けた市民感覚そのものが知識と情報の海に沈みかけているこの時代に、彼らは助け舟など出すそぶりもなく、相変わらず陸の孤島とも言える最高峰のお山のてっぺんで孤独に孤独に大傑作を生み出し続けている。


6
Acid Arab
Musique De France
陸の孤島問題最前線のパリからホットなグループを。アシッドハウスとアラブ音階のメロディの融合は特段新発明ということでもないが、今やることに意味がある。今の時代に対して必然性を持って生み出しているのをヒシヒシと感じられる点がこの作品のポイントだろう。そしてこれもBADBADNOTGOODにとってのヒップホップと同じように、彼らにとってのアラブ音楽は既にトラッドなものなのか、あるいはそう考えていこうぜというメッセージを含んでいるように思える。とにかくこの超オリジナルなサウンドをみんなも聴いてみてくれよなっていう感じを纏った、記号としてではない真のフレンチポップ。







5
The Caretaker
Everywhere At The End Of Time
アンティーク音源をそれが実際に慣らされていた当時とは全く別の切り口で蘇らせる様子は、さながらアートエキシビション。ホワイトキューブに放り込まれてアート銭湯に浸かり陶酔する我々。キュレーターはこの方The Caretaker。それにしても、ついに録音物にもアンティークの波が押し寄せて来たわけだが、今作の完成度ったらポストヒップホップ的視点で言えばPortsheadのDummy以来の衝撃だ。ホーンテッドマンションみたいなビデオもまたとんでもない代物なので必見。












4
Norah Jones
Day Breaks
大幅なウェイトアップによって持ち前の美声に厚みを増した現在の彼女。今作はポリティカルで皮肉の効いた歌詞、同じように曲順にも皮肉をばら撒いた。そしてなによりギターがピアノに取って代わり今までよりもだいぶキーを落としたソングライティング、適材適所で配置された手練れのサポートミュージシャンと共にアルバム全体を通して少しばかりドープなジャズセッションのように仕上げてある。

-Flipside-
"I can't stand when you tell me to get back. If we're all free, then why does it seem we can't just be?"

聴けばわかるとおもうが、24時間テレビ級の恩着せがましい歌声を2015年最大のズッコケアルバムに乗せて撒き散らしたどっかのADELEとは大違いだろう。とにかく今作に原点回帰とやらを期待してた人には本当にちゃんと聴いてほしい。良くも悪くもあなたたちの期待を大きく裏切る、これが彼女の”本当の”ファーストアルバムだ。









3
Tindersticks
The Waiting Room
こういったバリトンボイスのミュージシャンを好きになるとき、僕はハッキリとそこに亡き父の影を見る(たしか父はバリトンボイスではなかったが)。Leonard cohen、The NationalのMatt Berninger、晩年のJohnny Cash、最近だとSam Herringとか。その彼らが時々比較されるのがこのTindersticksだ。このアルバムはもうすでに過ぎ去ってしまった過去との繋がりを幾分稚拙な(本当はちょっと稚拙とは違うがうまく説明できない)言葉で慎重に語っていく。それはまるで誰もいない古本屋で埃の匂いを嗅ぎながら聴かされてるような気分だ。アルバムのハイライトは2010年に亡くなったLhasa de Selaをフィーチャーした(どうやって?)Hey Lucinda、そしてsavagesのjehnny bethと歌うWe Are Dreamer。
iPhone片手に洒落た古本屋に行き、カナル型イヤホンを耳に突っ込んで、溢れ出る自意識を妄想の海に垂れ流しながら聴いてみよう。というクソコト提案をしたくなるくらい、写実的なアルバムだ。
もちろんアルバムは泣きたくなるくらい最高だ。







2
Mark Pritchard
Under The Sun
曲数分どころか際限なくドアが用意され、そこからあらゆる時代にリンクすることができる無限の可能性を持ったこのアンビエントアルバムは、その可能性の分だけ不可能性も内包しながら、聴くたびに伸び縮みを繰り返す。という、わけのわからん感想しか出てこないが、Under The Sunというタイトルが示すのは恐らくこの世の全てで、つまりは一切を全く定義することのできない”全ての事象”についてのアルバムだと思われる。もはや表裏一体どころの話ではない。事実、今まで築き上げられてきた人類の営みが覆されようとする予兆がにわかに流れ始めた2016年に、まさに津波のように人々の生活を押し流したその先の風景を我々に見せようとする縁起でもない一枚だ。









1
Lambchop
Flotus
買ったばかりの、TC-HELICONのVoicelive 2とアナログリズムマシーンを小脇に抱えたカート・ワグナーは、バンドと共に"90年代式クラウトロックもどき”のアップデートに挑戦した。本人曰く、本当か嘘かわからないが今作はKendrick Lamarへのオマージュであると宣言しており、確かにいま隆盛を極めるR&B・ヒップホップシーンの上辺だけをすくい取ってBon Iverっぽくキメてみました風なプロダクションだが、もちろん今をときめく若い才能たちとは流れている血が違うし、60歳を目前にした彼らにとってはその上辺のエキスだけでも劇薬同然と言えるわけで、ただ逆ににその敢えてのペラペラな発想がここ一番のバニラエッセンス的にアルバムの特に中盤に深みを与えていることは確かだ。そしてなんといっても今作を大傑作たらしめているのは、サンドイッチの食パンのようなと言うとあまりに豪華すぎる存在となっているオープニングのIn care of  8675309とラストのThe Hustleに尽きる。In care of 8675309は同じ流れのヴァースとコーラスが合計8回(日本的に言うと8番まで)も続く、それはさながら”ハンマービート的”に拡大解釈された12分弱の全く壮大さのかけらもない南部フォークだ。繰り返し出てくる"House of cancer"という歌詞の意味がわからないことがモヤモヤするが、その不思議な中毒性は聴いた人を魅了するだろう。そしてラストのThe Hustleは殆どパンの耳みたいな曲で、序盤でClusterや初期Kraftwerkを彷彿とさせる5分ほどの軽めのエレクトロニックセッションが繰り広げられたのちの、カート・ワグナーの激渋な第一声がこちら。“I don't want to leave you ever and that's a long long time. And if by chance that I do. would you be gone?”

KraftwerkはAutobahnで、道路を彼らや人々の人生に重ねた。もちろんおなじみのハンマービートはそれ以前から存在していたが、そこから彼らはテクノロジーを題材に、徹底的にグレーで俯瞰的な視点のもと、テクノと呼ばれるようになる音楽性を掘り下げていく。その後、90年代中盤にクラウトロック再評価による”クラウトロックそのままやってみよう選手権”が巻き起こる。そこでは全く機が熟していなかったのか、粗悪品の温床となった。2000年代後半になるとようやくPortisheadやRadioheadによって、新しいロックの調味料として花開き、クラウトロックと相性の良いポストパンクバンド達(Horrorsとか)が続いた。アメリカでは近年のThe Nationalがスティーブライヒとクラウトロックを再会させる
そんな中でこのThe Hustleはそんな調味料としてのクラウトロックではなく"クラウトロックもどき"の歴史に決定打を打てる大名曲だ。カート・ワグナーは題材とする半径を自らのパートナーまで絞り込み、徹底した市民感覚となんらかの勘違いを爆発させて、それらを逆説的に曲の中に放り込み、仕上げになぜかVAN McCOYのThe Hustleをねじ込んだ。その傍らではバンドメンバー、特にピアノとホーンは感動するぐらい献身的に”曲にとって最良の方法とは?”を実践している。
最近、自伝映画が公開されたが、確かにチェットベイカーのように天才が身を削って生み出す芸術は、時にその生き様と相まって素晴らしい瞬間を生むだろう。だが僕は今作でLambchopが見せるごく普通の市民の日常を映し出す小半径の献身性に惹かれるし、そこにアートの素晴らしさを実感することができる。

このアルバムのタイトルはFLOTUS。
First Lady Of The United Statesの略で、カート・ワグナーの奥さんはテネシー州の民主党議長である。





1.
Lambchop - Flotus
2
Mark Pritchard - Under The Sun
3
Tindersticks - The Waiting Room
4
Norah Jones - Day Breaks
5
The Caretaker - Everywhere At The End Of Time
6
Acid Arab - Musique De France
7
Radiohead - A Moon Shaped Pool
8
Don't DJ - Music Acephale
9
Tortiose - The Catastrophist
10
Oren Ambarchi - Hubris Variation
11
Pj Harvey-The Hope Six Demolition Project
12
Badbadnotgood - Ⅳ
13
Hope sandoval & The Warm inventions - Until the Hunter
14
Frankie Cosmos - Next Thing
15
Sam Kidell - Disruptive Muzak